本人には病気の自覚がない

仕事や学業に行き詰まりを感じたり、意欲や向上心を失ったり、前駆期にみられるような症状は、人間一度は経験することです。それゆえに、統合失調症は発見されにくく、本人もなかなか病気と自覚できない場合が少なくありません。何となく自分に嫌気が差し、自信が持てないという、目立たない症状が長引くことで本人も苦しむことが多いようです。

誰でも悩みを抱えたり、ストレスが強すぎる環境で過せば不健康になりますが、統合失調症にかかる人は、もともとストレスに弱い傾向があるといわれています。加えて対人関係が億劫、一度にたくさんのことができない、集中力・持続力が続かない、生活リズムが乱れるといった症状が出ているにもかかわらず、「自分はストレスがたまりやすい」「いつものことだから」と放置しておくと、急性期に移行し、さらに重い症状が出てきてしまうことになります。

気がつきにくい病気自分自身気がつきにくい病気なのですから、家族など、周囲にいる人はなおさらです。症状が慢性的に続く場合、「ストレスに弱い」と決め付けてしまわず、病院に相談することが必要です。

 

家庭環境は影響する

統合失調症は完全な遺伝病ではないと考えられています。ただし、親・兄弟姉妹の中に統合失調症がいる場合、まったくいない人に比較すると、発生確率は多くなるようです。では、家庭環境が影響しているのでしょうか?

アメリカなどでは、以前、統合失調症にかかる人の多くは貧しい家庭に育っているという統計が発表されましたが、最近は間違いであることがわかっています。ただし、まったく影響しないのかといえば、そうでもないようです。

例えば、統合失調症を発症した時、男性では仕事・教育上のイベントが係わっている傾向が多く、女性では結婚・恋愛が引き金になると報告されており、女性の方が、家庭環境に影響を受けていることがうかがえます。

また、統合失調症にかかる人は、ストレス脆弱性(ストレスに弱い体質)があることは説明しました。そういう人は、肉親との死別や家庭で起きた大きな出来事が強度のストレスとして加わった場合、病気を発症しやすくなるとも考えられていますが、家庭環境が直接影響するかどうかは、はっきりとはわかっていません。

また、悲惨な母子関係が統合失調症の子どもを作るという説も巷間(こうかん)に流布していたようですが、現在では否定されています。ただ、昨今、ニュースで報道されるようなひどい幼児虐待や家庭内暴力、ドメスティック・バイオレンスなどを考えると、発症の一因として再認識されるかもしれません。

 

考えられる環境要因

統合失調症は、他の精神の病気同様はっきりした原因はわかっていません。性格的な要因、遺伝的な要因、脳細胞の損傷(ドーパミンの異常分泌)などの外的要因などが相互に作用して起こり得るということはお話しました。もうひとつの原因として考えられるのが、環境要因です。

進学、就職、転職、結婚など、人の一生には、さまざまなライフ・イベントが起こります。新しい学校・職場、見知らぬ土地、家族からの独立……生活環境は確実に変わりますので、誰もがそこに適応していかなければなりません。

順応性の高い人ならさほど問題はないのでしょうが、ストレスがたまりやすい人には、周囲の環境になじめない、 自分の気持ちをうまく伝えられないといった問題が生じる場合があります。また同じ学校・職場であっても、担任やクラス、部署や上司が変わったということでも、生活のリズムに変化が生じます。それが引き金となって、統合失調症を発症することは少なくないようです。

加えて人間関係のトラブル、恋愛、失恋、受験などからくる孤立感、絶望感なども原因の一部と考えられています。上記の要因は誰にでも起こりうること。必要以上に悩んだり、哀しんだりしないようにすることが大切です。

 

年齢別発症例

統合失調症は、主に思春期・青年期に発病することが多い病気です。10代~20代、近年は30代の発病も増えていますが、思春期以前の児童期にも多いですし、中年期から老年期にも発症例が認められています。

精神病性エピソードの発症年齢の中央値は、男性で20歳代の前半~半ば、女性は20歳代後半。発症の仕方は、潜伏性の場合もあれば、突然発症する場合もあります。また若年発症例は男性に多く、発症年齢が遅い症例は女性に多く見られます。

思春期・青年期に発症が多く認められる背景としては、この時期は身体の成熟の早さに比べ、心の成熟がこれに伴わないということがあげられます。前駆症状としては、「無口になって、「家族とも話をしない」「成績が下がる」「登校・登社拒否」などが見られ、だんだんと部屋にこもりがちになる、無気力でごろごろしているといった状態が多いようです。

登校や出社あるいは学業や就労を嫌い、人を避け、不機嫌になり、怒りの爆発や、衛生や身なりがおろそかになるなど堕落したような生活傾向が緩徐な形で出現する。そして妄想・幻覚、自我意識障害などの陽性症状が出現し、統合失調症であることが判明する。

中年期~老年期の発症例は、まだ少ないといえます。とはいえ、仕事や家事に追われ、ストレスを溜め込んでいる30~50代に発症の危険性がないとはいえず、注意が必要です。こちらの場合も、出社あるいは家事をしない、人を避ける、不機嫌になる、衛生や身なりがおろそかになるなどの生活傾向が見られます。

さらに、それ以上の年齢になっても、発症するケースがあります。多くの場合、最初は更年期障害、認知症などに付随する症状ではないかと判断されるようですが、きちんと診断したら統合失調症であったという報告もありますので、おかしいなと感じたら、専門医にかかるようにしましょう。

 

精神分裂症とはどう違う

結論から言うと「精神分裂病」と「統合失調症」は、同じ病気です。2002年8月、日本精神神経学会が、1937年から使われてきた「精神分裂病」という病名を「統合失調症」に変更することに決めました。その一番の理由は、「精神分裂病」という病名に、多くの人々が偏見を持っていたからです。

「統合失調症」というのは古代からある病気らしく、ギリシア時代の文献にも記載されているといいます。有効な治療法がなかった時代、人々はこの病気の患者に恐怖心を抱いたり、不治の病と恐れたりしたようです、中世には宗教裁判や魔女狩りの対象になったこともあったといわれています。

病気の原因日本においても、病気の原因が解明されず、長い間、統合失調症の患者は、社会から隔離されていました。確かに、一般の人には、この病気の症状が常軌を逸した奇妙なもので、なかなか理解しにくかったと思います。「何をされるか分らない」という、不可解なものに対する恐怖心が、この病気の人を遠ざけていたのは事実です。

近年では研究が進み、脳の病気であると認められるようになり、治療で治ることがわかってきました。そこで、誤解と偏見、不当な差別を解消する必要があるということから、「精神分裂病」は「統合失調症」へと呼称変更されたのです。

 

他の病気と同時に発症する場合

統合失調症を患った場合、時に他の病気を併発する場合があります。ざっと調べただけでも、「思路障害」「不安障害」「睡眠障害」「摂食障害」「パニック発作」「うつ病」「躁病」「自律神経失調症」「抑うつ症状」「強迫症状」などさまざま。とはいえ、併発が誰にでも起こるわけではありません。早期発見、正しい治療を行い、完治を目指すことで、このような事態を回避することはできます。

中でも統合失調症と「うつ病」は併発しやすいようです。

顕著な例は「分裂感情障害」でしょう。これは統合失調症と気分障害(うつ病・躁病など)の特徴を持つ病気です。青年期に急激に発症することが多く、発症以前は心身ともに良好であることが多いと言われています。

この病気は、統合失調症、躁病、うつ病の全ての症状を含み、同時または交互に症状が現われます。発病当時は統合失調症の幻覚・妄想状態だったのに、その後は、躁うつ病になってしまったり、逆に、最初は躁うつ病かと思ったのに、統合失調症の症状が出たりなどの経過をたどります。そのため、ある病院では「躁うつ病」、別の病院では「統合失調症」と診断されるということも生じます。

 

完治不能の病気ではない

統合失調症は治療で治すことができる病気です。未だに「精神分裂症」当時の誤った認識があるためか、「精神病だから、もう治らない」とか「元の生活には二度と戻れない」という人もいるようですが、あきらめてしまうのは間違いです。

統合失調症の治療の基本は、抗精神病薬の投与です。この薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減するのに効果があります。急性期の症状が治まった後、投薬を継続すると再発の可能性をかなりの割合で抑えることができます。

症状が落ち着いてきたら、抗精神病薬を服用すると同時に、社会復帰へ向けてのリハビリテーション、心理療法などを開始。時間はかかりますが、完治できないということはありません。ただし、完全に治すことは容易ではないといえます。というのも、統合失調症は再発することがあり、消耗期・回復期に、再び罹病してしまうと、また最初から治療をはじめなければならざるを得ない場合があるからです。

これが続くと、発症~再発を行ったり来たりする悪循環に陥ります。その大きな原因は、薬物療法をやめてしまうことにあるといわれています。誰でも病気は早く治したいですよね。統合失調症も同じで、表面的な症状がなくなると投薬をストップしてしまう患者が少なくないようです。しかし、これでは治るものも、治らなくなります。

不時の病ではない担当医師と相談しながら投薬を続け、根気良く治療を行うことが、遠回りのように見えて、社会復帰への一番の近道といえるでしょう。